仕事後だったらあいている、
昨日から明日まで高島屋に出店してるから、
一度荷物を家においてかえって、
22時近くになると思う、と言って、
風の人は自転車で駅前のタリーズに現れた。
初夏にうちまでピアスをもってきてくれたときも、22時近くだった。あのときは白夜が近くて、明るかった。あのときはロシアで、ここは東京。
ロシアも東京でも、彼とは家が近い。育った土地も同じ。
だから彼はいつもうちの近くまで来てくれる。
初夏に会ったときと同じ、革の黒いジャケット。
不思議な形をした自転車をとめて、鍵をかけて、久しぶり、と言われたとたん、私はわんわん泣いた。
どうしたの、一体どうしたのさ、と右の肩でわたしを抱えた
なにかあった?
東京、くるしい。
革の黒いジャケットの胸のなかで、私はわんわん泣いた。
泣ける人がこんなに近くに、いた。

昔さ、一人で外国を色々旅行していて、旅先の紙幣をちょっとずつ残して集めていたのね。でも今思うと無駄な事したな、って。思い出をとっておくより、どんどん行った方がよっぽど楽しい。だから最近は、残してしまうより、使いきってしまうか、乞食にあげちゃう。かつて貯めたお札もね、今は旅行じゃなくて仕事としてどんどんいくから、そこで使っちゃうんだけれど。
7,8年前ぐらいのウクライナの1グリブナ札がね、もう使えないの。なんだこれは、って、むしろとても珍しがられて喜ばれた。リトアニアの紙幣も、次使おうとおもったら、ユーロに変わってた。

昼に連絡をしたら、その日の夜に突然会えることになった。彼はいつもごちそうしてくださるか、多めに払ってくれるので、お土産になにを持っていこう、と昼間に駅前を逡巡していた。伊勢屋の若旦那に甘くないお菓子を聞いて、悩む。落雁、ゼリー系、豆餅。
結局、豆餅をかった。この店はねりきりがとても美しいのだけれど、彼は甘いものを食べない。
豆餅?へええ。この近くの店のなの?
と彼は袋をめずらしそうに眺めた。そう、待ち合わせした場所の、隣の隣ぐらいの和菓子屋さん。
明日、食べるよ。
私がロシアで使い残した21ルーブルを、ひきとってもらった。来週また、ロシアに戻るという。

ベルギーのビールと和歌山のビールをごちそうになり、カードで払ってくれて、帰り、ドアを開けてくれて、またね、と言って、店の前で別れた
おヨメに行った21ルーブル。幸せになあれ。

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