白い服と青い服を買った。オフホワイトのVネックと、コバルトブルーとか紺瑠璃の色の、Vネック。
今朝、白い服を着てみたのだけれど、ちょっと考え直して今日はブルーの服を着ることにした。わたしが真っ白い服を着ると、高校生みたいになる。
友達の顔を見に行こうとおもった。ついてからきっかり一時間で帰ろうと、最寄り駅について、携帯電話の時計を見る。12時半。
連絡をするよ、と言ってくれていたので、待っていたら数日後か数週間後か、連絡をくれるとおもうのだけれど、なんだかその人のお店まで、行った方が良い気がした。
途中、店に続く道のスーパーで、差し入れを買う。たぶん、お昼ご飯を食べる、食べない。何を食べるか。というのは本人が決めたい人なので、お腹にたまらないものを探す。その人はいつかパンが苦手だと言っていたし、甘いものも、食べない。
チーズコーナーで、その場で食べられるものを、選ぶ。
ベルキューブの、「ビールセレクト」というキューブチーズを買った。きっとお酒を飲みながら仕事をしているから。24個入り。その人と、仕事仲間と、来てくれたお客さんともわけあえたらいい。
1時間で潔く帰る、と決めて、顔を出す。
長い出張から帰ってきたその人は、すぐみつかった。
顔を合わせる。「おかえりなさい。」
チーズの入ったビニール袋を、おみやげだよ、と渡す。
その人はビールに目がない。これ、ビール買わなきゃだめじゃん。といった。
その人は、仲間とともに、赤ワインを飲んで仕事をしていた。「まあ、ワインでもいいけどね。飲む?チリのワインか、甘いワイン。」
「甘いの。」
聞いたことのない地名を言った。ロシアとグルジアとの国境付近にあるアブハジア共和国でつくった、赤ワイン。
全くぶどうジュースのような香りと、甘い味だった。
最近になって、いろんな大人から、グルジアとその付近の赤ワインのおいしさを教えてもらう。ロシアに住んでいたころ、もっと早く気づいていれば・・。
紙コップしかないんだけれど、と言って注いでくれた。
「с приездом‼」(おかえりなさい。)
乾杯の代わりに、そういった。その人はありがとう、と言って飲む。
この人、よいタイミングで、ありがとう、とか、おめでとう、とか、ハッキリと言葉にだして、言ってくれる。この人が皆に愛される理由の一つだとおもう。
帰ったらうちに品物を届けるから、連絡をするよ、と言ってくれていたので、待っていたら連絡をくれるとおもうのだけれど。
そうしたらわたしたちはどこかでビールでも飲んで、穏やかな時間をもって、話ができるのだけれど。
結局その約束を前倒して、品物は店頭で受け取った。
ご家族が数日前に、なくなったそうだ。出張から帰る日の前日になくなって、お葬式、いけなかった。と、ぽつりといった。
約束を前倒してその人のお店まで、行ったのは、そういうわけだ。「最近どう?」ってたわいのない話をして、わたしのユーリ・ガガーリンの名刺入れを見せて、わたしの派手なサイフを見られて「すごいね、それ」とからかわれる。赤ワインを飲む。チーズを食べる。そしてその人の仕事の邪魔をする。キューブのチーズの外包装を、くるくるとむく。
その人から品物はドル建てで引き取った。ロシア生活をはじめるときに準備した、そして結局あまり使わなかったアメリカドルが、わたしの鞄にいくらか入っていた。ドルでもいい?ときいたら、いいよ、とレートを計算してくれる。その人は1ドルが今いくら、ってちゃんと脳内に把握していた。ドルで買ったお客さんなんてはじめてだ、とその人はいった。じっさいわたしは変な客だった。
わたしの顔をみることで今日のその人が安心するかわからないけれど、その人がわたしのことを必要としているかわからないけれど、顔を見せて、ほっとしてもらうのが今日の用件である。その人の隣のお店の品物のアクセサリーも気になった。でも今日は不特定のお店のアクセサリーを買いにきたわけではない。ふらふらしてはいけない。
隣のお店のその人がどうという話ではないが、アクセサリーって、特にヴィンテージって、誰から買うかって、大事である。
13時半になった。これ以上立ち位置を膨張させて、外見はいつもどおりだけれど、ひょっとしたら深く悲しんでいるかもしれない、ひょっとしたらいっぱいいっぱいかもしれない、いややっぱりいつもどおりかもしれないこの人の世界観の邪魔をしてはいけない。おとこのひとのかなしみは、わたしにはわからない。ただいえるのは、わたしが数年前に家族を亡くしたとき、ほんとうに、ほんとうに悲しすぎて悲しすぎてどうしようもなくて、だれかにだきしめてもらってわんわん泣きたかった、ということだ。空は真っ青で、きもちのいい日曜日だった。
品物をうけとる。「この後、なにかあるの?」「ううん、なにもない。」
別れ際に、また時間ができたらのみましょう。と言った。ぜひぜひ。といって、わたしたちは、別れた。
PS 今日の甘口赤ワイン、友人にきいたらアブハジア共和国のлыхны という。友人がロシアから直に持って帰ってきた物で、もちろん日本で買えない。世界は広い。
https://www.budouya.jp/products/detail.php?product_id=1014
これが近いかな。グルジアのキンズマラウリ。甘口、赤。
今朝、白い服を着てみたのだけれど、ちょっと考え直して今日はブルーの服を着ることにした。わたしが真っ白い服を着ると、高校生みたいになる。
友達の顔を見に行こうとおもった。ついてからきっかり一時間で帰ろうと、最寄り駅について、携帯電話の時計を見る。12時半。
連絡をするよ、と言ってくれていたので、待っていたら数日後か数週間後か、連絡をくれるとおもうのだけれど、なんだかその人のお店まで、行った方が良い気がした。
途中、店に続く道のスーパーで、差し入れを買う。たぶん、お昼ご飯を食べる、食べない。何を食べるか。というのは本人が決めたい人なので、お腹にたまらないものを探す。その人はいつかパンが苦手だと言っていたし、甘いものも、食べない。
チーズコーナーで、その場で食べられるものを、選ぶ。
ベルキューブの、「ビールセレクト」というキューブチーズを買った。きっとお酒を飲みながら仕事をしているから。24個入り。その人と、仕事仲間と、来てくれたお客さんともわけあえたらいい。
1時間で潔く帰る、と決めて、顔を出す。
長い出張から帰ってきたその人は、すぐみつかった。
顔を合わせる。「おかえりなさい。」
チーズの入ったビニール袋を、おみやげだよ、と渡す。
その人はビールに目がない。これ、ビール買わなきゃだめじゃん。といった。
その人は、仲間とともに、赤ワインを飲んで仕事をしていた。「まあ、ワインでもいいけどね。飲む?チリのワインか、甘いワイン。」
「甘いの。」
聞いたことのない地名を言った。ロシアとグルジアとの国境付近にあるアブハジア共和国でつくった、赤ワイン。
全くぶどうジュースのような香りと、甘い味だった。
最近になって、いろんな大人から、グルジアとその付近の赤ワインのおいしさを教えてもらう。ロシアに住んでいたころ、もっと早く気づいていれば・・。
紙コップしかないんだけれど、と言って注いでくれた。
「с приездом‼」(おかえりなさい。)
乾杯の代わりに、そういった。その人はありがとう、と言って飲む。
この人、よいタイミングで、ありがとう、とか、おめでとう、とか、ハッキリと言葉にだして、言ってくれる。この人が皆に愛される理由の一つだとおもう。
帰ったらうちに品物を届けるから、連絡をするよ、と言ってくれていたので、待っていたら連絡をくれるとおもうのだけれど。
そうしたらわたしたちはどこかでビールでも飲んで、穏やかな時間をもって、話ができるのだけれど。
結局その約束を前倒して、品物は店頭で受け取った。
ご家族が数日前に、なくなったそうだ。出張から帰る日の前日になくなって、お葬式、いけなかった。と、ぽつりといった。
約束を前倒してその人のお店まで、行ったのは、そういうわけだ。「最近どう?」ってたわいのない話をして、わたしのユーリ・ガガーリンの名刺入れを見せて、わたしの派手なサイフを見られて「すごいね、それ」とからかわれる。赤ワインを飲む。チーズを食べる。そしてその人の仕事の邪魔をする。キューブのチーズの外包装を、くるくるとむく。
その人から品物はドル建てで引き取った。ロシア生活をはじめるときに準備した、そして結局あまり使わなかったアメリカドルが、わたしの鞄にいくらか入っていた。ドルでもいい?ときいたら、いいよ、とレートを計算してくれる。その人は1ドルが今いくら、ってちゃんと脳内に把握していた。ドルで買ったお客さんなんてはじめてだ、とその人はいった。じっさいわたしは変な客だった。
わたしの顔をみることで今日のその人が安心するかわからないけれど、その人がわたしのことを必要としているかわからないけれど、顔を見せて、ほっとしてもらうのが今日の用件である。その人の隣のお店の品物のアクセサリーも気になった。でも今日は不特定のお店のアクセサリーを買いにきたわけではない。ふらふらしてはいけない。
隣のお店のその人がどうという話ではないが、アクセサリーって、特にヴィンテージって、誰から買うかって、大事である。
13時半になった。これ以上立ち位置を膨張させて、外見はいつもどおりだけれど、ひょっとしたら深く悲しんでいるかもしれない、ひょっとしたらいっぱいいっぱいかもしれない、いややっぱりいつもどおりかもしれないこの人の世界観の邪魔をしてはいけない。おとこのひとのかなしみは、わたしにはわからない。ただいえるのは、わたしが数年前に家族を亡くしたとき、ほんとうに、ほんとうに悲しすぎて悲しすぎてどうしようもなくて、だれかにだきしめてもらってわんわん泣きたかった、ということだ。空は真っ青で、きもちのいい日曜日だった。
品物をうけとる。「この後、なにかあるの?」「ううん、なにもない。」
別れ際に、また時間ができたらのみましょう。と言った。ぜひぜひ。といって、わたしたちは、別れた。
PS 今日の甘口赤ワイン、友人にきいたらアブハジア共和国のлыхны という。友人がロシアから直に持って帰ってきた物で、もちろん日本で買えない。世界は広い。
https://www.budouya.jp/products/detail.php?product_id=1014
これが近いかな。グルジアのキンズマラウリ。甘口、赤。